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美麗之島~台湾紀行 その10

【客家人の里へ 1月3日】

 朝食をとりにホテルのレストランに行く。こじんまりとしたレストランには、おばさんとおばあさんの2人組がいた。親子だろうか。「ニイザオ(おはようございます)」と声をかけると「ザオ(おはよう)」と笑顔で返事が来る。気持ちがいい。おかゆとピータン(アヒルの卵の塩漬け、チーズのようなコクがある)、炒めた野菜の朝食を食べる。美味しいが、だんだん生野菜が恋しくなってきた。
 ホテルのフロントでタクシーを呼んでもらい、高雄駅に行く。この町ははじめは無機質な町だと思っていたが、とても面白かった。第一印象は当てにならないものだ。

 高雄駅の窓口には長い行列ができていた。私は8時30分の「自強号」の指定席を取った。乗車券のほかに小さな切符のようなものがついてきた。これは、座席のホルダーに入れておけば、眠っていても検札のときに車掌に起こされることはない。日本では見たことのないサービスだ。私は新竹まで乗り、新竹で昼食を取る時間がないので、駅弁を買っておいた。
 発車直前に、ぱっとしないおじさんが私の隣に乗ってきた。ちらりと切符が見える、私と同じく新竹までの切符を持っていた。おじさんは英語で「日本から来たのですか?」と聞いてきた。私はそうですと答えると、おじさんは「何の仕事をしているのですか?」と聞いてくる。私は「養護学校の教員をしています」と答えたつもりであったが、私の英語力では十分に伝わらなかった。そのおじさんは私に名刺を見せた。北京にある中国有数の有名な大学の中国史の教授であった。新竹にも同じ名前の大学があるから、姉妹校なのかもしれない。そうだとすれば、予想以上に大陸(中国のことを台湾の人はこう呼ぶ)と台湾の文化・学術の交流は予想以上に進んでいるようだ。喜ばしいことである。
 教授氏は、弁当を開けて食べ始めた。見ると私と同じ駅弁だった。教授氏は、私が持っている中国会話の本に興味を示していた。指で指すだけで相手に意味が通じるように字や絵が大きく書いている。私は、せっかくの機会なので、故宮博物館の展示品や、私の名前の中国語読み、竹のように節のたくさんある椰子の木の名前(ビンランと言うそうである)たくさんのことについて質問してみた。教授氏も養護学校について興味を持ったようで、私に色々質問してきた。あわただしいが楽しい時間だった。

 自強号が新竹の駅に着き、教授氏に別れを告げて、内湾線の乗り場に向かう。台湾には行き止まりのローカル線がいくつか残っており、内湾線もその1つである。ステンレスボディの真新しいディーゼルカーに乗る。軽やかに新竹駅を出ると、たちまち車窓の風景はひなびてくる。畑が多くなり、日本でもなかなか見られなくなった屋敷林もある。バナナがたわわに実っていて、手を伸ばせば届きそうだ。このあたりは客家人が多く住んでいる。客家人とは、中国人の一部で、独自の言語を持ち、団結心が強く、勤勉で倹約家が多いことで知られる。中国では福建省や広東省で独特なドーナツ型住居に集団で住んでいる。台湾では、普通の民家に住んでいる。
 だんだん山が高くなり、谷が狭くなると終点の内湾に住む。このような立地にある集落を谷口集落と言う。日本のローカル線の終点はこのような地形のことが多い。列車の折り返しまで40分ほどあるので、内湾の小さな集落を歩いてみる。客家料理の看板を出した店が何軒かある。ここはちょっとした行楽地になっているのだろう。人通りが多く、にぎやかだった。私は自強号の車内で駅弁を食べたばかりだから、ここではみかんのジュースを飲むだけにする。台湾のみかんは日本ののみかんそっくりだが、皮が薄い。少し酸味があり、私は台湾のみかんのほうが好きだ。最近の日本のみかんはやたら甘すぎる。
 再び新竹駅に戻り、自強号で台北に向かう。台北駅に降り立つと、故郷に戻ってきたような不思議な感じがする。今回のホテルは日本から予約しておいた、旅の後半だし、疲れているからホテル探しは避けたかった。

 夜は台北駅の近くのデパートでお菓子や烏龍茶などを買い込む。日本の家族や友人、生徒達へのお土産である。その後、西門町に行った。東京で言えば渋谷のようなところだろうか、レコード屋に行くと、平井堅の「大きな古時計」が聞こえてきた。CDやDVDも日本のものが多い。台湾の若い人は日本文化への関心が高いそうだ。夕食は安くて美味しいものを食べようと思って、ガイドブックには載っていない中華料理店に入ってみた。メニューは漢字ばかりだが、適当に頼んでみようと思ったが、ウエイトレスのお姐さんが不安に思ってしまったらしく、店の奥からシェフを呼んできた、そのうちに、隣の席のおじさんが何事かとやってくる、私は素直にガイドブックに載っている店に行けばよかったと後悔した、そういう店なら日本語のメニューもあるし、日本人の扱いにも慣れているだろう。そのうちに、隣の席のおじさんが英語でメニューの説明を始めた。そこまでしなくても、と思ったが、ありがたく説明を聞く。結局、ビールと、チンジャオロースとエビの炒め物を注文した。
 ビールも、料理もうまかった、しかし、言葉の通じない日本人の様子が心配だったのだろう、ウエイトレスもシェフも、私の様子を見に来る。私は「ハオツー(おいしい)」と言った。シェフは安堵したような表情で戻っていく。はじめは冷や汗も出たが、いい店に入ったものだと嬉しくなった。
 

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