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維新の風に吹かれて~山口紀行⑥

【11 城下町長府】

 12月26日。旅の最後の朝は快晴だった。一晩よく眠ったら、私も少し元気が出てきたようだ。下関から普通列車に乗って、15分ほどで長府の駅に着く。駅を降りて城下町に向かって歩き始める。住宅地の細い路地をあるここと30分、長府の城下町に入ってきた。 忌宮神社という神社があった。広い境内に、社殿の屋根の緑青(ろくしょう=銅にできるエメラルド色の錆)が美しい。一隅に相撲資料館という石造りの小さな建物があった。この神社は、仲哀天皇と神功皇后がクマソ征伐のために滞在した宮の跡という古い歴史を誇るそうだ。
 古江小路という狭い坂道を歩く。よく見れば平成時代がそこかしこに見られるが、土壁に囲まれた家や門構えなど、江戸時代に戻ったようである。坂をあがると長府毛利邸。明治時代に建てられた純和風の建物は、時代を経てすっかり古びているが、それでも、今の家にはない風格が出ている。庭園をのんびり歩いてみる。
 長州の歴史を語る上で欠かせない人物といえば、高杉晋作だろう。吉田松陰の松下村塾に学び、藩政を動かすほどの力をつけ、やがて奇兵隊を組織した。彼自身は28歳でこの世を去るが、この流れがそのまま明治時代に続いていく。その奇兵隊が挙兵をしたのがこの功山寺である。馬上に乗った高杉晋作の像は有名で、写真で見たことのある人も多いだろう。
 高杉晋作のことを抜きにしても、立派な寺である。国宝にも指定されているそうで、しばし見とれるほどの建物である。この寺には、もうひとつの歴史がある。中国地方に覇をとなえた大内家の最後の当主の大内義長が毛利元就に追われ、自害をしたのがこの寺である。義長の墓でもないかと探したが、結局見つからなかった。歴史は敗者には非情である。とりあえず竹やぶに向かって手を合わせておく。

【12 唐戸と壇ノ浦】

 城下町長府からサンデン交通の真新しいバスに乗った。このバスは青海島または宇部方面からの特急バスのようで、リクライニングシートの快適なバスだ。15分ほどで唐戸につく、字面を見て想像できるとおり、唐つまり、外国への玄関口であった。唐戸は長く重要な土地であり、古くは壇ノ浦の合戦、赤間神宮から、イギリス領事間が置かれていた時代もあり、日清戦争の講和条約がここで結ばれた(下関条約、日本側全権伊藤博文、清側全権、李鴻章)こともあった。そのためか、レンガ造りの建物も多く残っている。
 はじめは下関市立水族館へ。私は、動物園、植物園、水族館などが大好きで、旅先で見かけるとほぼ必ず見ている。ここでは、フグの展示が充実していた。クサフグとトラフグ位しか知らなかったが、これほど多くの種類のフグがいたとは少々驚く。学芸員さんが、カブトガニの甲羅をひっくり返しておなかを見せてくれた、機械仕掛けのように複雑なつくりになっていて、少々グロテスクだ。
 続いて唐戸市場へ、小腹が好いてきたので、瓦そばを食べてみる。本当に瓦の上で茶そばと錦糸玉子と肉を焼いたらしく、瓦からじゅうじゅうと音がしている。炒めた茶そばが香ばしく、あっというまに平らげてしまった。この料理は、西南戦争の折、兵士たちが瓦の上で野菜や肉などを炒めて食べたのが始まりといわれている。市場に入ると、もうせりは終わっていたが、観光客向けに魚を売っており、魚料理を出す店に人だかりができていた。わたしは、さっき瓦そばを食べたばかりであったが、フグ汁に手が出た。寒い中で、体があったまるフグ汁はうまかった。
 唐戸から関門海峡を右に見ながら歩くと赤間神宮がある。赤と白の社殿は遠くからでも目立つ。この神社は、安徳天皇を祀ったそうである。安徳天皇は、高倉天皇と平徳子(建礼門院)の子供で、平清盛の孫に当たる。まさに源平の合戦が始まろうとする1180年に天皇に即位し、平家の都落ちとともに西国へ逃れ、1185年、壇ノ浦でわずか8歳の生涯を終える。大人たちの思惑によって天皇にされ、非業の最期を遂げたのだ。この神社の社殿は竜宮城を模したとも言われているが、せめて海の中には安らげる場所があってほしいと思う。
 赤間神宮を過ぎるとほどなく関門大橋の美しい姿が見えてくる。このあたりが関門海峡の最も狭くなったところで、ちょうど壇ノ浦の古戦場も、幕末の長州藩による英仏の艦船への砲撃事件もこのあたりで起きた。対岸の北九州市の布刈(めかり)まではおよそ700メートル、手にとるように見える。背後は火の山、本物の要衝である、しかも潮流は早く、10ノット(時速18kmに達するという。平家の侍たちは、ここを死に場所ではなく、勝利の場所と考えていたのではないか、海での戦いに慣れていた平家だけにそう思いたくなるような場所だ。

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