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維新の風に吹かれて~山口紀行⑤

【10 金子みすゞの故郷へ】

 東萩駅から1両のディーゼルカーに乗る。車内は思いのほか混んでいる。補習か部活の帰りなのだろうか、高校生が多い。萩、玉江と萩市街地の南を回り込むようにして走っていく。河口近くで地盤が悪いせいか、それとも萩城下町の人々が鉄道を嫌ってそうしたのかわからないが、駅と市街地が離れていて不便だ。40分ほどで長門市に着く。
 ここから仙崎までは山陰本線の支線もあるが、きわめて列車本数が少ない。駅前には2ヶ所にバス乗り場がある。駅を背にして左側にサンデン交通、右側に防長交通である。防長交通のバス乗り場で待っていると、サンデン交通のバスがやってきて、行き先を見ると仙崎行きだった、走っても間に合いそうに無かったので諦めたが、バス会社同士、同じ名前のバス停でも場所が違っており、旅行者にとってややこしいことが多い。待つほども無くなく、防長交通の青海島行きのバスがやってきた。はきはきとした元気のいい運転手で、こちらも元気になる。少し待った甲斐がある。仙崎の駅前でバスを降り、コインロッカーを探すが、駅にも、併設になっている観光案内所にも無い。駅前の野菜と手作りの雑貨を売っている店のおばさんに荷物を預かってもらう。
 せっかく漁港の町まで来たのだから、うまい魚を食べてみたいと思い、観光船乗り場の近くの店を物色する。繁盛している店に狙いを着け、刺身の定食を食べてみる。ブリの刺身とブリの照り焼き、ブリ図串のメニューだ。脂が乗っていてうまい、イカの刺身もなかなかのものだった。
 漁港から、青海島大橋を渡る。対岸の青海島が崖になっているため、目のくらむような高い端になっている。橋の下の海峡の流れは速く、渦を巻いている。
 青海島に渡ってすぐに、王子山公園がある。高台から仙崎の町を見下ろすことができる。みすゞの詩のひとつに「王子山」というのがあり、「わたしの町はそのなかに、龍宮みたいに浮かんでる」と詠っている。21世紀の現在では、どちらかと言うとひなびた漁村でしかない仙崎であるが、おそらく、今とそんなに変わらない姿であっただろうと思われるみすゞの少女時代(1903年・・明治36年生まれなので、少女時代というと明治の末~大正の前半と言うことになるだろう)の仙崎は、それこそ竜宮のように華やかな町だったのだろう。
 再び青海島大橋を渡り、みすゞ通りと名づけられた路地を歩く。家々には、詩を板に書いて玄関先に掲げている。町ぐるみでみすゞの町として盛り上げていこうという意気込みが感じられてとても嬉しい。
 郵便配達のお兄さんが、先輩の指導を受けているようだ。そういえばもうすぐ正月、年賀状配達のアルバイトかもしれない。心の中で「ガンバレ」と声をかける。
 みすゞ通りの一番の呼び物はみすゞ記念館だ。彼女が少女時代をすごした金子文英堂を再現した建物である。彼女が過ごした部屋も再現されている。展示物も充実しており、ぜひ一度足を運ぶといいだろう。
 私の一番好きな詩「私と小鳥と鈴と」が掲載されているものを選び詩集を買う。「鈴と、小鳥と、それから私、みんなちがって、みんないい」みすゞの詩の中では有名な方である。ご存知の方も多いだろうと思う。
 
仙崎駅に戻り、列車を待つ。小さな駅ながら行き止まりで、なんだか知らない国に迷い込んでしまったような気がする。ディーゼルカーに乗って、長門市で特急「いそかぜ」に乗り換える。夕暮れの日本海は、キラキラと輝いている、もう1時間もすれば闇に支配される、今日の太陽の最後のかがやきである。列車は時折山あいに入る。1軒家があり、ぽつんと明かりが点っている。疲れが急に気分が沈んでくる。旅先でこんな気持ちになることは珍しい。いつの間にか涙が出てきた。列車はそんなことは気にも留めず夕暮れの山陰本線を疾走する。
 下関の街の明かりが見えてきた。駅を出ると、そこは何て明るいのだろう。ここ2日間、小さな町ばかり歩いてきた、まるで大都会に来たようだ。今日は下関の街を歩きながら、フグでもと思っていたが、街の明るさと人の多さに目まいがする。駅前のデパートでお弁当を買うと、早々とホテルに入ることにする。

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コメント

またもやいい旅をしましたね。
旅って誰かとすると楽しいこともありますが、一人のほうが自分の興味のあるところをじっくり時間をかけて見れたりするからいいときもありますよね。自分はそんなに旅に行かないのでやえもんさんの旅の話を楽しみにしています。

 ひとり旅の最大の利点は、自分が見たいところをじっくり見ることができるところです。史跡を訪れては歴史上の人物に思いをはせたり、観光地でない町を歩いてその町の普段着の姿に触れたりします。
 もっとも、お酒を飲むときや、食事の時には仲間がいればなと思うときはあります。

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