12年目の北海道③
【3 ボクとチハルとラワンブキ 8月1日】
8月1日、札幌は暑い雲に覆われていた。8時20分過ぎ、札幌駅に行く。平日の札幌駅は、多くの人が行きかい、あわただしかった。この駅には、動力を持たない客車を改造して、ディーゼルカーに改造した車両や、電車とディーゼルカーを併結した列車など変り種の列車も楽しめる。8時50分ごろ、ラベンダー色に塗られた流線型の先頭部が特徴的なディーゼルカーが手稲方向から入ってきた。自由席は半分強の席があっという間に埋まる。9時5分に軽やかなエンジン音とともに発車する。札幌の市街地を過ぎ、南千歳から石勝線に入ると、牧場の中を走る。追分駅からはひたすら山の中である。どこまで行っても人の姿の見えない秘境である。そんななかに、突然異変のように高層建築のホテルが建っているトマムリゾートがある。バブルの崩壊後は元気のない状態で、降りる人もほとんどいない。新得から農村地帯に戻り、突然人家が増えだすとまもなく帯広に着く。帯広で半分以上の人が降りる。高架橋で、ビルもちらほら見え、大都会に来たようだ。帯広過ぎると次は池田である。
池田から「ふるさと銀河線」に乗る。国鉄の赤字ローカル線であった池北線第三セクターで存続したものであるが、人口が少ないうえ、距離が長く、経営は厳しかった。路線を廃止することが最近決まったばかりである。ふるさと銀河線の列車は、池田駅の長いホームの端に、わずか1両だけ、ちょこんと停まっていた。列車は、懐かしいアニメ「銀河鉄道999」のキャクターが描かれていた。若いお母さんが、運転手さんに何か頼んでいた。聞き耳を立ててみると、子ども4人だけで、本別まで乗るので、本別に着いたら、降ろしてほしいということだった。都会の電車では考えられないことである。本別までは35分ほどかかる。ちいさい4人の旅人にとっては、大冒険だろう。
列車は、ジャガイモや麦、トウモロコシ畑の中を進む。ちょうど北海道では麦の取り入れの時期のようだ。冷房のない列車なので、窓を大きく開けて、道東の空気を思いっきり吸ってみる。本別駅には、初老の夫婦が待っていた。4人の小さい旅人は降りていった。彼らが大きくなるころは、公共交通機関が利用可能な状態で残っているのだろうか?本別から2つ先の足寄で下車する。立派な駅舎と跨線橋があるが、列車を降りた乗客は、みんな線路を歩いて行く。私もそれに続く。
足寄駅は、道の駅も兼ねていて、立派な建物である。1回には、物産の販売店が、2階にはこの地出身の歌手である、松山千春の資料館がある。とくにファンというわけではないが、ひととおり資料を見てみる。展望台があり、名前が「千春ありが塔」という脱力しそうな名前であった。階段をひたすら上ると、足寄の町が見渡せた。盆地状の地形に、思ったよりも広い範囲に集落が散らばっている。北海道の集落は、中心部といえども密度が低く、広々している。町を歩くと、そば屋さんを見つけたので、天ざるそばの昼食にする。特に期待しないで入った店だが、思いのほかしっかりとしたそばと、さくさくしたてんぷらでおいしかった。次の列車までまだ2時間近くあるので、町を歩いてみる。思いがけない発見をした。オート三輪を発見した。高度成長期の初期の働き者であるオート三輪は、私の記憶にすらほとんどない。それが、ぴかぴかで自走できそうな状態である。ものすごく活きのいいシーラカンスを発見したようなものだ。
町を見下ろす公園を歩いてみる。野球場やテニスコートなど、町の規模の割にはスポーツ施設が充実している。通りかかった足寄町役場の職員と思われるお兄さんも、3人組の中学生も、私を見ると挨拶してくれる。気持ちがいい。芝生の上に寝転んで、空を見てみる。昨日の札幌に比べればかくだんにさわやかな風、きれいな青空、きれいな空気、有名観光地にいるよりも心地よい。有名観光地などクソクラエという心境になる。足世路駅に戻り、売店でラワンブキのソフトクリームを食べる。最近は何でもかんでもジェラートやソフトクリームにするが、フキを使うのは珍しい。かすかにフキの香りのするソフトクリームであった。
足寄から再びふるさと銀河線に乗る。それほど高いわけではないが、北見と十勝を分ける峠にかかる。線路のすぐそばまで湿原が広がっている。訓子府を過ぎると再び畑が広がる。今度は、タマネギ畑が広がっていろ。車内にも少しタマネギの香りが広がった。今日の夕食は、カレーライスと、オニオンサラダとオニオンスープにでもしようかと思う。北見駅近くのホテルに泊まり、北見の町を歩いてみる。人口が10万少々の割には立派な町であった
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