私の三連休(下)
翌日、雨が降っていた。私達は仙台市の北隣の利府町に梨狩りにいこうと思っていたが、この天気ではどうしようもない。その代わりにどこかに行こうという話しになり、結局石巻市にあるサンファン館に行くことになった。友人2人と私の3人で出発し、利府から三陸道に乗った。三陸道に乗れば石巻まではあっという間である。市街地の東にある牧山をトンネルで抜け、牡蠣の養殖が盛んな万石浦の入り口を短い橋で渡ると間もなくサンファン館がある。ここには、戦国時代を生き延び欧州の覇者になった伊達政宗が大いなる野望を抱き、慶長遣欧使節として支倉常長(1571~1622)を乗せたサン・ファン・バイティスタ号が復元され、展示されている。
政宗の野望とは、まだ体制が固まっていない江戸幕府に代わり天下を取ろうとしたものだ。そのためにスペインと貿易関係を結び、そこから得られる利益を天下取りの為の資金にしようと考えた。そのためにスペイン人宣教師ソテロと支倉常長を使節として派遣した。困難な航海を経て常長たち一行はメキシコのアカプルコを経てスペインに着いた。しかし、この頃から幕府によるキリスト教の禁教が本格化したこともあり、交渉はうまくいかなかった。状況を打開するためにローマ法王パウルス5世に謁見したが、うまくいかなかった。1620年目的を果たせず帰国し、間もなく失意のうちに常長は死んだ。
復元されたサン・ファン・バウティスタ号は、内部にわたるまで精密に再現されていた。日本初の西洋式帆船であったが、細かい装飾に和風の意匠が見られた。このタイプの船(ガレオン船)は、それまでの帆船に比べると大幅に性能がよくなったとはいえ、太平洋横断には大きな危険が伴っただろう。居住性だって個室を与えられたのは船長とソテロ、常長のみ。残りの180名の一行のほとんどが雑魚寝で乗り組んだ。缶詰や冷蔵庫のような便利なものはない、硬いビスケットや干物ばかりの食事、水だってすぐに腐ってしまうだろう。幸い、この時代の航海の大きな問題だったビタミンCの不足による壊血病は、仙台味噌を持ち込むことによることで解決したことは幸運だった。
それにしても、帆船は美しい。高くそびえるマスト、船体が全体として弓なりにそり、いかにも船足が速そうだ。こんな船に乗って旅をして見たいなと思った。
結局、慶長遣欧使節団の派遣は失敗に終わったが、実は小さな種を残した。数人の日本人がスペインに残り、その子孫がハポンさんとして、スペインの大地に根を下ろし、今ではスペイン全土に1000人以上のハポンさんがいるのだという。中には、1996年にミス・スペイン選ばれたハポンさんもいるという。ちなみに、ハポンとはスペインで日本を意味する。サムライの子孫は、スペイン社会の中で一定の地位を築いているようだ。天国の常長も、微笑んでいるのかもしれない。
私達は、サン・ファン・バウティスタ号の形をしたパズルをしたり、ウニご飯をいただいたりして楽しく過ごしたが、じつは常長の旅の様子を再現した映画を上映したシアターではひそかに涙を流していたことは友人2人には内緒である。決してそのシアターが揺れたからではない。
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コメント
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やえもんさんの解説のおかげでこのサンファンバウテスタ号やこの時代のことを数倍理解することができました。
さらにこのブログをよんでさらに「へえ」と。
宮城に住んでいながら地元のことをよく知らないので、これからは興味を持っていろんな土地を巡りたいと思いました。
投稿: まっきー | 2007.10.13 13:02
やえもんさんの解説のおかげでこのサンファンバウテスタ号やこの時代のことを数倍理解することができました。
さらにこのブログをよんでさらに「へえ」と。
宮城に住んでいながら地元のことをよく知らないので、これからは興味を持っていろんな土地を巡りたいと思いました。
投稿: まっきー | 2007.10.13 13:04
歴史や地理を知れば旅はもっと楽しくなります。今回もいろんな発見ができてとても楽しかったです。
スペインのハポンさんの代表が支倉常長の子孫と面会したと言うニュースを聞いたことがあります。距離と歴史を越えての縁、なんだか不思議な気がします。
投稿: やえもん | 2007.10.14 12:55
運転お疲れ様でした。
当時の船内の様子は、なかなか興味深いものでしたね。
シアターで感涙していたとは、全然気づきませんでしたよ。
投稿: けーじゅ | 2007.10.14 22:39
当時の船内の生活は文明の利器に囲まれた私たちにとっては想像を絶するものですね。雑魚寝生活、私は大雨で避難所生活の5日間が限界でした。
ここ数年すっかり涙もろくなってしまって、この手の話はてきめんです。あまり格好のいいものではありませんが。
投稿: やえもん | 2007.10.14 22:50