遅いことはいいことだ~「SL郡山会津路号」に乗る
現代人は忙しい、仕事で忙しいのは止むを得ないとしても、遊びに行くにも高速道路を走ったり、新幹線に乗ったりと猛スピードで走り回っている。文明の進歩によって私たちが多大な恩恵を受けていることは否定しないが、なんだかもう少しのんびりしていてもいいような気がする。実は新幹線に乗ることよりも普通列車に乗って旅をしたり、高速道路を走るよりも一般道を旅したほうが贅沢なのではないかと思う。もっと言えば、松尾芭蕉の時代のように歩いて旅をするのは、現代人にはなかなかできない贅沢なことなのだと思う。
福島県の郡山駅と会津若松駅の間、およそ65km.(鉄道営業キロ)、磐越西線ん快速電車で1時間5分ほど、磐越道を走る高速バスなら1時間10分程度、国道49号線を自家用車で走ると2時間弱で行ける。そこを3時間かけてのんびりと走る列車がある。それが、この「SL郡山会津路号」である。
郡山駅1晩ホームにはたくさんの人が主役の登場を待っていた。やがて黒いボディのC57型蒸気機関車が入ってきた。この機関車は、1937年から47年にかけて製造された蒸気機関車で、美しい姿から「貴婦人」の相性がある。廃車になった後、199年から磐越西線での復活運行が行われている。
郡山を7割近くの乗車率で発車した。子供連れが多く、車内はにぎやかだ。郡山を出ると間もなく安達太良山が見えてくる。早くも磐梯熱海では20分の停車。急ぐ旅ではないし、のんびりプラットフォームを歩いているううちに時間が過ぎてしまった。ここからはSLにとって難所である中山峠越えである。機関車は盛大に煙を上げるが、時速30km.くらいまで落ちてしまう。そういえばかつて祖母が言っていたな、SLが坂を登るときの蒸気を排出する音が「なんだ坂 こんな坂」と聞こえると。そう思って聞いてみると本当にそう思えてくるものである。坂を上り終えるとほっとしたように足を速める。上戸を過ぎると猪苗代湖が、関都からは磐梯山が見えてくる。磐越西線の車窓のハイライトである。いつもの電車より速度が遅いから車窓をゆっくり眺めることができる。
猪苗代を過ぎると子ども達も疲れたのか車内が静かになる。私も弁当を広げて、食べ終わると少しだけうとうとする。会津盆地に向けて慎重に坂を下ると間もなく会津若松に着く。あっという間の3時間だった。
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