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友との別れ

 10年ほど前のこの時期、中学校以来の友人との別れをした。別に彼が死んだわけでもないし、彼が遠くに引っ越してしまったわけでもない。私は彼に「今後一切私に関わるな」と絶交を宣告した。止むにやまれず長年の友人を切り捨てることはは本当につらいことだった。

 彼と知り合ったのは、中学校1年生の時、私の実家の近くに彼の一家が引っ越してきた時からだった。スポーツ万能な彼と運動音痴な私は、一見接点がないように見えて、実はとてもウマがあった。学校に行き帰りによくバカな話をしたものだった。そのころから彼には夢があった。彼は音楽で成功したいと思っていた。彼の夢を聞くのは本当に楽しかったし、彼の成功を心から望んでいた。
 高校も同じ学校に進学した。そして、かれとの友情にもいささかの変化もなかった。卒業後は私は養護学校教員を目指し大学へ、彼は音楽への道を目指し専門学校に進学した。それでも、夏休みや冬休みには彼をはじめ、中学校時代の仲間たちと集まって酒を飲んだ。この時は最高に楽しい時間だった。私はこの仲間たちといつまでもこうして会えたらいいなと心から思っていた。

 彼が専門学校を卒業した後、かれは音楽の道で生きていくために色々な挑戦を続けていた。しかし、音楽の道を志す者は多くても、それで生活ができるのはほんの一握りの者だけである。ちょっと才能があるだけではどうにもならない世界なのだろう。結局、彼は音楽の道を断念して、地元に戻った。ちょうどそのころ、いつまでも続くと思われた好景気が終わり、日本は深刻な不況の時代に入った。彼はなかなか納得できる就職先を見つけることができず、さまざまな職業を転々とした。彼に会うたびに、私は彼の表情からかつての光が失われていくのを感じていた。
 私は大学を卒業後、教師になった。その2年後、結婚をすることになった。そのことを彼に話したら、かれは心から喜んでくれた。そして、披露宴で余興をやると申し出てくれた。私は、彼の申し出をありがたく受け入れた。我は自作の曲を弾き語りしてくれた。こんな嬉しいプレゼントはこれまでの生涯でなかった。
 私が結婚後も彼との関係は続いたが、ある時、彼が平日の夜私の家を訪れたいとの連絡があった。私は彼の訪問を喜んで、妻と共に彼が来るのを待った。彼は見慣れない男を一緒に連れてきた。彼の要件は、私をマルチ商法の仲間になってほしいというものであった。私が使っている台所洗剤や歯磨きと彼らが取り扱っている商品との比較テストを始め、自分たちが扱っているものがいかに優れているのか話し始めた。しかし、彼らの比較テストの方法に非常に疑問を感じたし、その商品自体に全く魅力を感じなかった。それ以上に友人と一緒に来た男の何かに取りつかれたような表情を見て、異常なものを感じた。
 その後も、友人は私の家にやってきた。友人は、自分たちのビジネスがいかに素晴らしいか、たくさんの成功者が出ていることを熱く語ったが、私の心には全く響かなかった。それよりも、私は彼が哀れでいたたまれなくなった。つかめもしないものをつかもうと必死につかもうとしている彼の姿を見たくはなかった。あるとき、彼を駐車場まで送っていくとき、私は彼に告げた。「もう来ないでくれ、俺は今後お前と一切かかわるつもりはない」。その時、彼は悲しそうな表情をして、私に背を見け歩きだした。私は彼の背に向け「この馬鹿野郎が、見損なったぞ」と叫びたかった。しかし、そんなわけにはいかず、足元の砂利を蹴っ飛ばした。泣きたいほどつらかったし、悔しかった。しかし、私も安穏な生活を守るためにはこれしか考えられなかった。それ以降、彼から連絡が来ることはなかった。中学校以来の仲間もこれをきっかけに完全に解散してしまった。

 その後、彼がどこでどうしているのかわからない。私の知るところ彼のその後を知っている人はいない。今、彼はどこの空の下でどんな星を眺め、何を思っているのだろうか。かれが語っていた夢のような成功は手にしたのだろうか(そうとはとても思えないが)。いずれにせよ元気でいてほしいと思う。お互い元気でいればまた会えると思うし、そうあってほしいと思う。

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コメント

みんないろいろな出会い、わかれをするよね。
自分も別れたくない人と無理やりわかれたことがある。
忘れようと思ってもふとした時思い出すし、今自分が人と接する時に少なからず影響が出ていると思う。
だからこそ、もしその人に会うことができるなら自分の方から仲直りしたい。
できないかもしれないけど。

そうだねぇ。
38年間、いろいろな出会い、別れを繰り返してきたけれど、この別れはつらい別れのうちの一つかな。
会う機会があれば仲直りをしたいと思っています。

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