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小高の今

 福島県の浜通りに小高という町がある。東に太平洋、西に阿武隈山地があり、その間の平野部に小ぢんまりとした市街地がある。東北の中では冬でも温暖で、農業が盛んな町である。と、大きな特徴がない町であるが、戦国時代には相馬氏が城を構え、このあたりの中心部であった。また、地味にラーメンの激戦区であった。平成の大合併により、2006年に原町市、鹿島町と合併して南相馬市になった。

 この町と私は縁が深い。私がいわき市にある中学校に入学し、1年の担任になったのがこの町出身の先生であった。初任の先生で、ちょっと頼りなさそうなひょろっとした男性の先生であった。先生は「小高町」のナンバーが付いたボロボロの原付で通勤していたので、私たちはその原付に「小高町スペシャル」という名前を付けた。休みの日には友達を誘って先生のこれまた絵にかいたようなボロアパートに遊びに行った。私は頼りないながら一生懸命な先生のことを尊敬していたし、兄貴のように思っていた。残念ながら先生は身体を壊して1年たたずに教師を辞めたが、その後も長い間年賀状のやり取りを続けた。後に私が仙台の大学に進学すると、帰省のたびに電車の窓から目を凝らして小高の町を見た。もしかしたら先生を見かけることができるかもしれないという淡い期待を抱きながら。

 そんな小高も、2011年の3月11日には、東日本大震災による強い揺れと津波に襲われた。南相馬市(原町、鹿島、小高)で、1500名近い方が亡くなった。その後、東京電力福島第一原子力発電所事故の発生によって、小高は半径20kmの警戒区域になり、立ち入り禁止になった。その後、放射線量の低下もあり、2012年4月16日からは立ち入りはできるが、宿泊や生活はできない避難解除準備区域になった。私の縁のあるこの町の現在を見ようと思って、小高に行ってきた。

 郡山の自宅を車で出発し、二本松から阿武隈山地の横断にかかる。川俣で小休止をして、飯館を超え、南相馬市の中心部である原町につく。ここでしばらく休んだ後小高に向かう。小高に行くには海沿いの国道6号線と山側の剣道があるが、今回は走ったことのない山側を選択する。原町から小高に入ると、はっきりと景色の変化がある。生活の痕跡が見えないのだ。家の庭も、住む人があれば踏み固められて雑草の発生も抑えられるが、立ち入りはできても、生活はできない小高では、雑草は伸び放題になっている。小高川に架かる橋を渡り小高の市街地に入ると、景色は一層凄惨なものに代わった。地震で崩れた家は片づけられることもなく、無残な姿をさらしていた。歩道のレンガの隙間からは勢いよく雑草が伸びていた。電車の走ることのない小高駅に車をとめ、駅の周辺を歩いた。駐輪場に停めた自転車のチェーンは赤く錆びつき、家の門扉も錆だらけになっている。駅近くに、小高商業高校と小高高校があるが、校庭は雑草に覆われていた。まるで、錆と雑草に支配された町である。人気のない街がこんなに不気味なものだとは思わなかった。カメラは持ってきたが、とても写真を撮る気にはなれなかった。そんな静寂に包まれた町に突然オルゴールが鳴り響いた。電気は通じているようなので、どこかの店で時間を告げるオルゴールが鳴ったのであろう。私が来たころは風が弱かったが、徐々に南風が強くなってきた。この町の南には今なお事故収束の見通しのない東京電力福島第一原子力発電所がある。私は、これを区切りに引き上げることにした。次は、この町に人が住めるようになったら訪れたい。それが1日でも早いことを願っている。

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