「いびつ伝〜日本最初の養護学校を創った柏倉松蔵の物語」岩間吾郎著
日本で最初の肢体不自由時のための教育機関、一般的には1932年に東京都麻布にできた光明学校(現在は東京都立光明学園、場所も世田谷区に移っている)とされているが、実際は1921年に東京都の小石川にできた柏学園を日本最初の肢体不自由の教育機関とするのがより正しいと私は考える。柏学園では、柏倉松蔵の妻であるトクと、織田訓導(現在の教諭)当時の尋常小学校(現在の小学校)に準じた授業を行い、松蔵が医療体操やマッサージを行い、通学のほか保母がいて学園に泊まり込んで学ぶことができた。また戦前では極めて珍しかったスクールバスがあり、児童生徒の通学のほか、遠足にも活用されていた。そうなると、現在の肢体不自由特別支援学校に必要な要素は揃っていた。ただし、当時の学校に関して定めた学校令に基づく学校ではなかったことと、柏学園が1958年に廃止され、当時のことを知る人も記録もほとんどが失われ歴史から消滅してしまった存在になってしまった。
この本の著者の岩間吾郎氏は戦前柏学園に在籍し、戦中から戦後も柏倉松蔵と一定の交流を保っていた人物である。数少ない柏倉松蔵と柏学園の貴重な記録であるし、身体に障害を持つ著者が太平洋戦争前後の困難な時代を生きてきた自叙伝でもある。私は学生時代肢体不自由児教育史について卒業論文を書き、柏倉松蔵についても文献をいろいろ読んだが、そこではわからない生身の人間としての姿があった。かなり分厚い本だがじっくり読んで欲しい本である。
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