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撤退戦

 今年の能登半島は災害続きである。元日には能登半島地震があり、9月には洪水があった。どちらも多くの人が亡くなり、負傷した方、建物の損壊、道路の破損などが多数出た。この災害によって、避難所などで不便な生活を強いられた人が多数出た。地震活動は長い地球の歴史の中で比較的地震の少ない時期と多い時期を繰り返しているが、今はおそらく地震活動の多い時期になっているし、今後南海トラフ巨大地震の発生も予想されている。地球温暖化は進み、今年は異例づくめの夏であった。温暖化の進行により、大雨による土砂崩れや洪水などの被害は年々深刻化している。

 しかし、災害に対するマンパワーは年々弱体化している。すでに日本国民の平均年齢は50歳前後と高齢化が進み、人口の減少も深刻である。今後も日本の人口減少は続き、現在1億2000万人いる人口は、2050年前後には1億人を下回り、2100年には6000万人、ひょっとしたら5000m万人を割り込むという。こうなると、マンパワーの不足は深刻で、災害対応や復旧工事に携わる人が足りないどころか、資材の搬入や炊き出しも満足にできなくなるという事態すら想定できる。もちろん、外国から人を呼び寄せ、日本に住んでもらうということを考える人もいるだろう。私もそれは基本的に賛成だが、それにも限度はある。日本だけでなく、アジアの多くの国ですでに出生率の低下が始まっていて、そう遠くない将来人口減少が始まる国も多い。そうなればそれらに国々も人口を自国に引き留めようとやっきになるだろう。そのような中で日本が長期的に他国から人口を集め続けることができる保証はない。

 人口減少と災害の多発、この2つを考えると、今後の日本の防災政策は、撤退戦だと思う。災害に弱い地域をリストアップし、あらかじめそこに住んでいる人に移住を促すことに尽きると思う。人口が増加している時、あるいは国民の年齢が若い場合は、災害に強い道路を作る、高い防波堤を作るなど災害に強い地域作りをした上で引き続きその土地に住んでもらうという政策を取ることができる。しかし、人口が減少が今後も続き、高齢化も進んでいる今の日本でそれは得策ではないと思う。

 具体的には、災害に弱い地域の人に、災害に強い地域への移転を促す。その時に大事なのは、できるだけ、その地域の人が同じ地域に移転できるようにすることである。移転には、住みなれた土地、住みなれた家を離れるという大きな痛みを伴う行為である。せめて長年顔馴染みであるご近所さんと一緒ならそれも少しは和らぐと思う。小さな集落を災害に強い場所に集約すれば、バスなどの公共交通機関、スーパーマーケットなどの買い物の利便性、そして金融機関や医療機関なども維持しやすくなり、結果的には生活の利便性も大きく高まると思う。そして、災害に弱い地域から人々が撤退することで、防災や道路維持、公共インフラの維持費を大幅に削減することも可能になる。もちろんその際には人々の心の拠り所になる寺院や神社、墓地なども一緒に移転できるようにすると良いと思う。暴論に聞こえるかもしれないが、誰かが勇気を持って始めないと進まないことだろうと思う。

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