恐れていたことが起きた
駅弁は旅の大きな楽しみのひとつである。地域の食材を使い、地域の味を楽しむ。その中には名物駅弁となり、全国にその名を轟かせているものもある。群馬県の横川駅の峠の釜飯、富山県の富山駅のますのすし、福岡県の折尾駅のかしわめし、北海道の森駅のいかめし、まだまだたくさんある。その中に、青森県の八戸駅の八戸小唄寿司という駅弁がある。しめ鯖と鮭を使った押し寿司で、少し甘めの酢飯に脂の乗ったしめ鯖と鮭が実によく合う弁当でなかなか美味しかった。全国各地に駅弁はあるが、内情は決して楽とは言えないようだ。かつては列車の速度が遅く、駅構内の飲食施設や商業施設も今ほど充実していなかった時代は駅弁のお世話になることが多かったが、今では列車の速度も上がり、列車内で食事をすることも減り、コンビニエンスストアの充実でライバルが増えた。そのため、廃業に追い込まれる駅弁業者も多い。
もちろん駅弁業者も黙ってはいない、様々な新商品を開発したり、デパートやスーパーマーケットの駅弁祭りに商品を出しているところも増えた。とくに、デパートやスーパーマーケットの駅弁祭りは人気のある企画で、売り上げの多くをここであげている駅弁業者も多いと聞く。もちろん、販路を拡大して売り上げを増やすのは悪いことではない。しかし、それには安全という大前提がつく。そこに一抹の不安を持っていたが、今回その不安が現実になった。八戸の駅弁業者がスーパーマーケットなどで販売した駅弁で食中毒が発生し、その被害者は全国で500人近くになるという。
実は、この食中毒が発生したのは、9月16日と17日に販売されたものであったが、16日に市内のスーパーマーケットに行った時に、駅弁祭りをやっていたことに気づいたが、暑い時期にはまだ早いのではないかと思ったので、駅弁は買わずに帰った。その時食中毒を起こした業者の駅弁があったかまでは見ていなかった。駅弁は常温で販売されることが多い。本来なら駅のそばで調理して、短時間で売り切るのが本来の姿である。暑い時期に長距離を輸送して販売するというのは、徹底的な衛生管理が必要なことなのだろうが、そこに少しのミスがあるとこのような事態になる。
今回の食中毒では、米飯が糸を引いていたという証言がある。問題となった米飯はは八戸からおよそ100km離れた岩手県にある業者から納品されたものであるが、温度管理が不十分で、本来30℃以下で納品されるべきものが、50℃程度で納品されていたという。また、八戸市まで輸送した車は、冷蔵車ではなく、普通のワンボックス車で、エアコンをかけていただけだという。車のエアコンは当然ながら食品を保冷するだけの能力はない。(車のエアコンにそんな能力があったら、下手すれば車内に乗っている人は低体温症になる)。また、駅弁業者も温度が高いことを認識していながら廃棄せず、自社の設備で冷却した後弁当に使ったという。
今回の問題は、米飯の衛生管理の問題が大きいが、それと並んで、自社で炊飯できる数を大幅に上回る発注を受けてしまったことにもあるだろう。もちろん、3連休でかき入れ時だったから無理をしてしまったのかもしれない。衛生管理の基本に立ち返り、無理のない範囲で販売するなど、して、安全で美味しい駅弁が食べられるようになって欲しいと心から願う。
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