私が住む地区では、スーパーマーケットが開いて30分後くらいにちょっとした渋滞が起こることがある。毎日というわけではないが、週末その時間に出かけると2回に1回くらいは渋滞に出くわすから、やっぱりそこそこの確率といっていいだろう。その渋滞の特徴は、クルマの流れが時速6キロメートルくらいと遅いこと、スーパーマーケットの入り口を過ぎると、急にクルマの流れが良くなることである。原因は、スーパーマーケットに買い物に行くおじいさんが、電動車椅子(セニアカー)で車道の真ん中を走っているからである。1度だけだが、おじいさんのすぐ後ろになったことがある。おじいさんは車線の真ん中を時速6キロメートルでさっそうと走り、右ウインカーを出してスーパーマーケットに入り、私もちょうどスーパーマーケットの駐車場の真ん中に電動車椅子を停めると、よたよたと歩いて店内に入っていった。
時速6キロメートルで車線の真ん中を走るというのは、迷惑であるというのは間違いないことだろう。しかもその道路は追い越し禁止で中央線はオレンジ色の線が引かれているし、交通量もそこそこ多い、私も何度か遭遇したが、おじいさんの電動車椅子の後には結構長いクルマの大行列ができていた。しかし、誰も内心迷惑に思っているが、クラクションを鳴らしたり、無理に追い越そうという人はいない。マナーが良い地区というわけではない。みんなが気づいているのかもしれない、このおじいさんの姿は、自分自身の少し先の姿だと。
このおじいさんの姿を見ていると、おそらく最近まで車を運転しているのだと思わせるところが多い。徒歩や自転車で移動していたなら、車道の真ん中を走るという発想はないし、駐車場に電動車椅子を停めるという発想もない。おそらく最近まで車を運転していて、認知機能や身体機能の低下を家族から指摘され、あるいはそのため事故を起こして運転免許を返納したのだろうと思う。高齢者のクルマを見ると、車の後部や左側のドアやバンパー、ボディにキズやへこみのある車が多い、認知機能や身体機能の衰えで、運転に困難をきたし始めている状態である。少し前だが、ボディの左側のほとんどがビニールテープだらけというクルマを見かけたことがある。それに比べればこのおじいさんはまだ潔いのかもしれない。
高齢者は家の外に出るなという人もいる。乱暴な話であり、私は全く賛成できない。現在の高齢者はひとり暮らし、あるいは高齢者の夫婦の世帯が増加している。買い物や通院だけでなく、友人や親類を訪れたり、公共施設を利用したり、娯楽施設に行くなど、自宅に閉じこもらないことが心身の健康を維持する上では非常に重要なことである。自分でクルマの運転をすることができるうちはまだいいが、それが難しくなったら、徒歩、自転車、電車やバスなどの公共交通機関、そして電動車椅子(セニアカー)などを組み合わせて利用することで、行きたい場所に行け、会いたい人に会うことができるようにしていかなければならないと思う。クルマを運転するドライバーの中には、電動車椅子に乗っている高齢者を目の敵にする人がいる。やれ、「遅い」、「邪魔だ」車に乗れるってそんなに偉いのですか、あなたはいくつになっても認知機能や身体機能が衰えないのですね?万が一車に乗れなくなったら自宅に引きこもるのですか?どれも間違いである。電動車椅子(セニアカーは、本来歩行者扱いで、歩道を走ることになっているが、現実の道路状況は、歩道が電動車椅子が走るには狭すぎたり、段差があって危険だったりする。現状、そのような場所では、車道の端を電動車椅子が走るのはやむを得ないことだと思う。そして、電動車椅子を製造する会社や販売店などが電動車椅子の使い方やマナーについて、しっかり伝えるべきだと思う。そしてドライバーも、電動車椅子の走行を妨げないようにする優しさがほしい。また、普段から徒歩や自転車を使っておくと、クルマから電動車椅子への意向もスムーズにできるようになるのかと思う。あのおじいさんの姿は、みんなにとっていつか来る道なのだ。
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