今ではすっかり使われなくなったが、かつてはデートカーという言葉があった。文字通り、若い男性がなけなしの給料をはたいて、付き合っている女性と出かけることを主目的に使われるクルマで、かつてはこう呼ばれるクルマがたくさんあった。たとえば、ホンダ・プレリュードもそうだし、トヨタ・セリカもそういう色合いが強い車種だった。そにような中で、後年とある理由により、違う性格のクルマに位置付けられたクルマがある。それが日産・シルビアである。
シルビアが誕生したのが1965年に誕生した。そしてS13シルビアは5代目のシルビアとして、1988年に誕生した。1988年は日本が円高不況を乗り越えて、本格的にバブル景気に突入した時期で、この国には元気がみなぎっていた時期だ。若年人口も多く、その当時の世相として、恋愛は今よりはるかに若者たちにとって大事なことだったし、むしろ当たり前のように思われていた時代だ。まだ、酒と女とタバコとクルマが男性にとって当然のたしなみとされていた時代だ。私はこのうち、タバコとはついに縁がなかったが、この時代であればどちらかというと少数派だったのだろう。
シルビアというと、スポーツカーというイメージを持つ人もいるかと思うが、どちらかと言えばそれは後年の話になる。その証拠はこのクルマを外側から眺めてみるとよくわかる。このクルマのエクステリアは、一言で言うと流麗、女性的な美しさがあるといえよう。特に斜め前から見たボンネットからキャビンにかけては5ナンバーサイズという制約の中でこんなに美しいデザインができるのだとため息が出るような美しさがある。しかし、これがスポーツカーとしてみれば、力強さに欠けると評価する人もいるだろうと思う。ボディーカラーを見てもそう思う、このクルマに最も似合った色は、ライムグリーンのツートーンであった。決して、赤や黄色などの派手な原色系であった。赤は前期型はかなりオレンジがかった赤だし、後期型は原色に近い赤になったが、このクルマにさほどあっていたとは思えない。もしこのクルマがスポーツカーなら、クルマが主役、赤や黄色などの派手な原色系の色が似合うクルマにしていただろう。しかし、このクルマはあくまでもデートカー、主役は彼氏と彼女、クルマは道具としては大事だが、目立ちすぎちゃいけない。
しかし、時代が進み、デートカーイコールシルビアのようなクーペボディーとは限らなくなる。パジェロのヒットもあり、レガシィツーリングワゴンのヒットもあった。これらのクルマなら、スキーやキャンプの道具を積めるし、友達を誘えるし、クルマの乗り降りだって楽だ。しかし、捨てる神あれば拾う神あり、玉数の多いシルビアは安価なスポーツカーとして脚光を浴びるようになった。もちろん、無理な走行で事故になり、壁に刺さって一生を終えた車も多いが、近年まで大事に乗られた車もある。人生も数奇だが、車生と言うものがあるとすればこれもまた数奇なものなのかもしれない。
最近のコメント